bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

『ハルビン駅へ』ー書評

ロシア史を専門とするアメリカ人歴史学者の手になるハルビンの興隆史です。 20世紀の初頭、いまだかって自由を知らなかったロシアが国家システムに自由を導入しようと試みました。本土から離れた満洲に入植者を引き寄せ自由な社会を構築してロシア・リベラリ…

『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』-書評

本書で満洲建国大学なるものを初めて知りました。 満州建国大学は関東軍と満洲国政府の手により1938年、満洲国の新京市に創設されました。 民族協和を建学の精神として日本人、中国人、朝鮮人、モンゴル人、白系ロシア人の優秀な学生を集めました。その目的…

『語られざる真実 (「戦争と平和」市民の記録)』

あの戦争で学徒召集され敗戦後にもかかわらず俘虜となり帰国後自殺した哲学者、菅季治。その誠実で悲惨な人生を菅のソ連抑留記、日記でたどる。さらに帰国後に彼のシベリアでの行為をめぐって開かれた衆参特別委員会の議事録と当代の知識人を結集した座談会…

『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち 』ー書評

幼いころ明治生まれの祖父の膝の上で映画「明治天皇と日露大戦争」をみてなぜか目頭が熱くなった記憶があります。 数十年ぶりにその感動が明治の日本人像という記憶で蘇りました。...日露戦争を陰で支えた黒子ともいうべき高橋是清、獅子奮迅の物語です。 決…

『政治の起源』–書評

「歴史の終わり」のフランシス・フクヤマの著書。新世紀の幕開けを告げたオレンジ革命もアラブの春もその思惑とは異なり政治の迷走がいまだ止まない。ベルリンの壁の崩壊にともない期待された歴史の終わりは訪れず、勝利したはずの民主主義は今やますます混…

白川道の小説

年に一度は白川道を読みたくなる。それは場末の酒場で無性に安酒をガブ飲みしたくなる気分に似ている。 雨上がりの夕暮れ時、盛り場の雑踏から逃れるように飛び込んだ裏路地の見知らぬ居酒屋。日陰の喜怒哀楽が焦げ付いた温風がエアコン代わりの換気扇に乗っ…

『日本人の「戦争」』

日本人の精神構造からあの戦争とはなんだったのかを抉る。その論考は哲学的深淵に至る名著。 楠正成、織田信長の戦から明治へと身分差別を打破して国民の時代を築いた日本。日清・日露は「国民の戦争」を戦うことができた日本。 しかし文明開化は欧米人でも…

『緩慢の発見』シュテン・ナドルニー 著

ドイツ文学の新たな古典と評価される一冊。なんとも不思議な小説。19世紀北極圏で全滅したフランクリン隊は冒険史上有名な逸話らしい。その隊長であった探検家ジョン・フランクリンの生涯を描いた小説。幼いころから海を夢見ていたが、生まれつき話すのも動…

『大格差』

原題「AVERAGE IS OVER」 資本主義の行き着く先は超実力社会、少数の大いなる勝者とその他大勢の敗者となり中間層の減少は必然だという。 その根拠はコンピューターに象徴される機械の知能の驚異的で迅速な発展である。いまやアメリカの知的エリートが目指す…

『秋の思想』ー河原宏〜書評

歴史はこざかしい認識論などで解するものでない。それは誠実さを尽くして生きかつ死んだ人の記憶とそれを追慕する人間像であると主張した著者の遺作。 源実朝から三島由紀夫まで情と志に生きた「人」の思想をその時代、社会背景から浮き彫りにする。 歴史観…

『帳簿の世界史』-書評

会計が文化の中に組み込まれた社会は繁栄してきた。この主張を裏付けるヨーロッパ政治社会史の手引書ともいうべき本です。その解析手法は秀逸で気楽な読み物として登場する人物、逸話への興味は尽きません。 無理を承知で勝手な時系列で要約をしてみます。 …

『暴力の人類史』-書評

西欧を主軸とした暴力(殺人を除く殺し合い)の歴史とその分析から人類の精神発展史ともいうべき論理を展開しています。 歴史学者をはじめとする暴力に関する膨大な資料を精査分類して古今東西の哲学から認知科学、進化心理学までの知見を駆使し分析したその…

『第二次世界大戦 影の主役―勝利を実現した革新者たち』-書評

逆説的ではあるが本書はポール・ケネディによる日・独の第二次世界大戦「失敗の本質」論とも言うべき傑作である。 当代きっての歴史学者ポール・ケネディは戦史や軍事行動、指導者に的を絞るのではなく「いかに制空権を勝ち取ったか」、「いかに電撃戦を食い止…

『幼児教育の経済学』ジェームズ•J•ヘックマン著ー書評

人間と経済の関係を出生率1.8などと無機質な数値でしか把握できず、公平性と効率性は公的投資における二律背反命題だなどという国の問題点がよくわかります。 また17歳以下の子供の貧困率が16.3%という日本の公共政策に携わる人のみでなく幼少期の子供、孫を…

『イエス・キリストは実在したのか?』  レザー・アスラン著 ー書評

実際のイエスは平和と愛を説いた救世主や宗教家ではなく、ローマ帝国とその権力に迎合したユダヤ教に対する武力闘争をも辞さぬ革命家であったことを明瞭に示した一冊。 イエスの死後そのメッセージを伝えるべき使徒は読み書きもできない農夫や漁師であり代わ…

書評『ハロウイーンの文化誌』

1938年10月30日、100万人が避難したといわれる米国CBSの火星人襲撃放送。じつはハロウィーン向けラジオ放送だった。 黒猫、魔女、カボチャというハロウィーンの主役三点はポーの「ユーラルミー」ホーソンの「ヤンググッドマン・ブラウン」アーヴ…

書評 「Q」ルーサー・ブリセット

1517年、ルターはローマ教会に抗議してヴィッテンブルクの教会に95か条の論題を張り出した。贖宥状批判に端を発した宗教改革運動はドイツ騎士戦争から農民戦争へと紛争は神聖ローマ帝国全土に拡大しシュマルカルデン戦争を経て1555年アウグスブル…

京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)

京の魅力。それは時空間を集散したカオスが織りなすアナーキーな心地よさであろう。酒場では京都と書いてあっても京と呼びたい。なんといっても京と京都では酒のうまさが違う。そこで、こんな本を見つけた。 京都育ちの哲学者が一系統だけの市バスで名所旧跡…

石原慎太郎論

父を亡くした長男の石原慎太郎が公認会計士をめざして勉学に励む傍らで弟裕次郎がくり広げる奔放で野放図なブルジョア的青春。それは日夜机に向かう慎太郎の羨望を秘かに掻き立てたに違いない。 そのプライドゆえに自分にはできようもない破天荒で反倫理的な…