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米中関係と「召使」

 

「中国と米国の関係は正式なものではなく、もちろん結婚ではない。同意の上での同棲ですらない。中国が単に地下室に引っ越してきて使用人として働き始めたようなものだ。そうした関係の危険性は『召使』に描かれている。主人は世間をよく知る人として社交界に出ているが、家では立場が変わるのだ。主人は召使にますます依存するようになり、召使が力を持つようになる。」これは英国のエコノミスト、チャールズ・デュマ(ロンバード・ストリート・リサーチ社チーフ・エコノミスト)の語ったものです。(Quoted in “China’s Holdings of US Securities: Implication for US
economy” a report by the Congressional Research Service, 19.Aug,2013)

 

これだけでも意味ありげなのですがさらに深読みをしてみますとこのコメントの肝は『召使』にあるようです。

『召使』は1963年の英国映画で一つ屋根の下に暮らす主従の人間関係をシニカルに描いた名画です。赤狩りで英国に逃亡した米人ジョセフ・ロージー監督が英国作家そのもののロビン・モームの小説を題材にしてロンドン生まれの貴族然としたダーク・ボガードを召使役に起用するという英国人がいかにも喜びそうなお膳立ての映画です。

デュマは中国が使用人として地下室に引っ越してきたといっていますが映画では使用人部屋は3階にあります。エレベーターのない時代に階段の昇降を厭わぬ主人など稀であったのです。
英国を含む西欧そして米国でも主人の部屋は下層階にあり使用人部屋は20世紀初頭まで屋根裏部屋とも呼ばれた最上階にあったのです。
地下室はあったとしても洗濯や物置用の部屋でした。
ということは中国が洗濯部屋に住んだとしても主人の米国はどこに住むのでしょうか。とにかく中国の上階であればどこでも良いのでしょうが間違っても3階ではないとおもいます。しかし使用人より上階に行ってしまうと下にいる使用人の動向を監視することが難しくなってきます。また外出するには階段の昇降が大変になります。

主人と召使そして建物内での上階と下階それはともに垂直関係ですが、主人と社交界とは水平関係です。家の内部での垂直線そして外部の水平線その座標軸を維持することの困難と矛盾に主人は葛藤します。こんな精神的葛藤をもたらした召使をデュマは関係の危険性と表現しているのでしょう。
さらにボガートは主人を騙して愛人を妹だと称して家に引き込んでしまうのです。やがて主人はその妹に惹かれていくのです。まるで妹という名の愛人は北朝鮮の如きです。


このような背景に浸りながらチャールズ・デュマのコメントを再読すると4年近い前の発言とは思えぬほど的確に米中関係の立ち位置を予言しており未完の戯曲を観賞するような冷めた臨場感を感じる次第です。

※ 余談ですが、20世紀初頭ベルリンに富裕層向け屋上テラス付きアパートメントが建てられ主人は最上階に使用人部屋は地下室や階下にというペントハウスの歴史が始まったということです。