bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

サザエさんと演歌の花道

会社員の思い出は日曜日の午後の憂鬱であった。夕暮れ時になると近隣のTVからサザエさんのテーマソンが華やかに聞こえてくる。私は月曜からはじまる仕事と周囲に展開する茶の間の風景に大きな落差を感じた。日曜の夜があけると明暗一転する己の心情はどう考えても前向きにはできない。気の進まぬ夕食をすませやがて夜の帷が降りると周囲が静寂さを取り戻す。私は安酒を手にしてTVの前に陣取るのだった。ボリュームを絞ったTVから流れくるのは寂寥さを抑えた来宮良子のナレーションだった。

「浮世舞台の花道は  表もあれば裏もある 

 花と咲く身に歌あれば  咲かぬ花にも唄ひとつ・・・」
それは非日常から日常へと反転する時間の流れに身を任せてこの世の深淵へいざなう御詠歌を聞くにも似たものだった。
私は盃を傾け、咲かぬ花にも唄ひとつと瞼を閉じて明日を思うのだった。