bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

『政治の起源』–書評


「歴史の終わり」のフランシス・フクヤマの著書。
新世紀の幕開けを告げたオレンジ革命アラブの春もその思惑とは異なり政治の迷走がいまだ止まない。ベルリンの壁の崩壊にともない期待された歴史の終わりは訪れず、勝利したはずの民主主義は今やますます混迷を深めていく感さえする。
私は先進国の歴史から経済的発展と民主主義の成長は強い相関関係があると思い込んでいた。しかし決してそうではないことをこの本は構造論的に歴史を解析して教えてくれる。
民主主義政治の確立には3つの主要素が必要だと著者は論ずる。それは権力を統合し執行できる「国家」、権力行使が予見可能な「法の支配」、共同体全体の利害を反映した民主主義的な「説明責任」だとする。そしてこの3つがバランスよく揃うためには3つの力が必要であり、それは経済成長、社会的動員、正統性と正義に基づく国家認識だという。つまりそれぞれ3つの主要素と補助要素は分散独立したものであり相互の補完や影響関係で成立したり成長するものではないということなのだ。
結果にすぎぬ事象から各要素の相関関係を主観で想定したうえ因果律的に歴史を解釈していた我が身は恥じ入るばかり。
なるほど「法の支配」も「説明責任」も放り出し、ひたすら独断と偏見からなる独善と主観を客観的合理性と言い換え権力を統合し執行する「国家」、そこではさらなる経済成長が必ずしも大きな自由と民主主義もたらすわけでない、そんな政治の起源をアベノミクスは身銭を切って演じているのか。それにしても国民にとっては高い代償だ。