カリフォルニアに在住している友人が不慮の事故で亡くなった。
日本では松の内のある日、妻と共にトロントにいる娘を訪ねた。家の戸口を開けるなり悲報が娘の口から飛び込んできた。
信じられない。
1日前にメールで新年の挨拶を交わしたばかりだった。
同年代の彼とはデンバー在住時に知り合った。それから彼は自身が経営する事業の都合でロスアンジェルスに移住した。半年後に私も転勤で同地に転居した。その間足掛け6年にわたるアメリカでの交流だった。それから数十年なぜか気ごころが合って彼が日本へ来るたびに日米の社会諸情勢を肴に酒を飲み交わす仲だった。
70歳になる前に車でルート66を辿る旅を一緒にしようと約束していた。
そろそろ実行しようかと思っていた矢先のことだった。
私が娘を訪ねたのは二人の幼児を持つ娘の家族とデズニークルーズでカリブを旅行する目的だった。
トロントからプエルトリコに飛びサンファンから出航しグレナダ、バルバドスなど東インド諸島を一週間で巡る旅。デズニーのエンターテイメント精神に溢れたおもてなしに孫たちは歓喜し私は初めて訪れたカリブ諸国の美しい自然と陽光溢れる船旅に心身ともに癒やされた。
やがてクルーズ船にはアダルトフロアという大人だけのデックがあることを知った私は夕食後のある夜そのフロアへ一人で出かけた。
客室フロアからの階段を降り切るとそこは一面に地図を模したフロアーであった。足を踏み入れたカーペットの靴先にはSanta Monicaの文字その先には車道が描かれている。
ルート66だ!廊下一面に描かれた車道と都市を辿り長く迂回した通路の先にたどり着くと灯りを絞ったバーがあった。
カウンターでジントニックを頼んで私は窓ぎわのソファに腰を下ろした。窓越しに見えるカリブ海は静かで暗闇の底に沈んで行くように思えた。運ばれてきた酒を口に含んで目を閉じた。
瞼にサンタモニカ・ピアの観覧車が浮かび、ゆっくりと回転する座席に彼の後ろ姿が一瞬浮かんで消えていった。