bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

書評 「Q」ルーサー・ブリセット

 

1517年、ルターはローマ教会に抗議してヴィッテンブルクの教会に95か条の論題を張り出した。贖宥状批判に端を発した宗教改革運動はドイツ騎士戦争から農民戦争へと紛争は神聖ローマ帝国全土に拡大しシュマルカルデン戦争を経て1555年アウグスブルクの和議に至る。
その結果、信仰の選択は都市や領主が決定することとなった。

実在した人物群像に虚構の人物を巧みに配し既得権益をむさぼる支配層(カール5世、ローマ教会)と抑圧された被支配層(農奴、人民)そして新興勢力層(プロテスタント、学者)の三つ巴構造が浮き彫りにされる。

主役を特定せぬまま幾多の語り手が登場する。彼らは各地で頻発する血で血を洗う層間闘争、各層の内部抗争を冷静に時には激情的に語る。その背景はセピア色の中世を彷彿とさせるアウグスブルクニュルンベルクなど二十近い都市で時間を交差し過去からの重いテーマ(信仰と自由)を載せて舞台は回る。

ミステリー仕立てではないのにいつのまにか時計の針を止める犯人(既得権益の悪を知りながらも権力に追従する)探しに陥る自分、そして舞台はやがて暗転して結末を迎える。

なんとも不思議な魅力いっぱい面白さ抜群、傑作!