bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

『帳簿の世界史』-書評

 

会計が文化の中に組み込まれた社会は繁栄してきた。この主張を裏付けるヨーロッパ政治社会史の手引書ともいうべき本です。
その解析手法は秀逸で気楽な読み物として登場する人物、逸話への興味は尽きません。

無理を承知で勝手な時系列で要約をしてみます。

 

紀元前。
ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスは透明性の高い精密な会計で自身の政治的正統性を功績に結びつけ帝国発展の礎を築きました。

古代。
聖マタイは浪費を避け富への誘惑を絶ち誠実に心の帳簿をつけよと説きました。つまり精神の帳簿という会計文化をキリスト教に持ち込んだのです。

中世。
キリスト教徒は善行と悔悛に加えてキリストの血の代償により罪を帳消しにできるという心の会計の借方と貸方を学んだのです。

ルネサンス期。
教皇庁との取引で財を成したメディチ家の当主コジモはヨーロッパ最大の富豪となると法律でフィレンツエの土地所有者、商人に複式簿記の維持を義務付けその監査記録は今日まで保存されているということです。

近代。
オランダ総督マウリッツは複式簿記を学び政権運営にそれを導入した史上初の為政者でした。そして17世紀ヨーロッパで最も識字率が高く会計の理解度も高い国として黄金のオランダ時代を迎えたのでした。

さらに太陽王ルイ14世を支えた会計顧問コルベール、緻密な原価計算で大成功をおさめた英国の名門ウエッジウッド、奴隷も個人帳簿に計上した米国のジェファーソン、会計を忌避したヒトラー・・・。

会計システムを社会の中に組み込んできた社会が繁栄したのは何故でしょうか。
それは無味乾燥な数字の羅列から宗教的、文学的な意味合いを読み取ることが出来るほどに文化的な意識と高い意志を持つ社会が育ったからです。その背景には透明公正な会計と説明責任の完遂(日本語ではうまく説明しきれませんがFinancial accountabilityということです)が大きく寄与したためでした。

この本はいつか来る自身の清算の日を恐れず迎えるための手引書とも言えましょう。