bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

『秋の思想』ー河原宏〜書評

 

歴史はこざかしい認識論などで解するものでない。
それは誠実さを尽くして生きかつ死んだ人の記憶とそれを追慕する人間像であると主張した著者の遺作。

源実朝から三島由紀夫まで情と志に生きた「人」の思想をその時代、社会背景から浮き彫りにする。

歴史観を述べるため選択した「人」の背景は理解できるが、衰退する時代を秋に模し精神の彷徨に立ち向かう情と志を哀感、哀惜、思慕で装うあまり「人」の人間像が前のめりに過ぎた嫌いがある。

たとえば西郷、乃木、芥川、三木それぞれの敗死、自決、自殺、獄死は近代日本史の悲劇的な様相を暗示すると指摘。そこから三島の切腹自殺(伝統的な武士の死)はこの多様で重層的な死の形を戦後日本に引き継ぐ象徴と位置付けるなど賛同でき難いものがある。

「忠」は心と中を組み合わせたもので「心中」となったものとする武士社会への痛烈な批判とその勇気、近松門左衛門など春(徳川幕府初期)の思想の筆致を意気に感じるのは皮相的だろうか。