bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

北方四島について。

北方領土問題について大前研一氏の気になる論説を目にいたしました。 

 
「北方4島について、日本政府はずっと国民を騙している」というものです。
 
要約しますと、以下のようなものです。 
・日本敗戦後にソ連(今のロシア)が北海道の分割を要求した。
・そこで、アメリカはソ連北方領土を領有することを認めた。
・その後の日ソ間交渉で、日本は二島の返還を前提にソ連と友好条約を締結したいと
アメリカに告げた。
・しかし、アメリカは四島の返還をソ連に要求しない限り沖縄は返還しないと突き放した。
・これが日本政府の四島返還論の背景で、政府はずっと国民に嘘をついてきたという。
 *1


この論説を裏付けるような元外務省職員、佐藤 優氏の記事もあります。
 ・2016年末ロシアのプーチン大統領が来日し安倍首相と面談しましたが、
  この話を プーチン大統領は知っていたというものです。
週刊現代2017年1月14.21日号)
 アメリカの影をかなり具体的に指摘していますので以下に引用します。

*2
 
いっぽう日本政府は北方領土問題に関する見解を外務省HPのQ&Aで示しています。
しかし、精読してみますと、全体像が把握できずすっきりしないものを感じます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/mondai_qa.html#q1
 
どうやら北方領土問題は日本とロシア二国間のみの問題ではなさそうです。
 
*添付の二つの引用文はいずれも長文ですが、本件にご興味を持たれましたら
  是非お読みいただければと思います。
 
 ここで長文をあえて添付しましたのは、次のような考えからです。
 歴史について語るとき、文脈がない事件や資料の羅列では読者に対してまた読者にとっても
 意味(現時点で過去を振り返り将来展望への一助とする)をなさないのではないかと思います。
 なぜなら、歴史は人の集合活動の結果または進行形であり、AIがいくら進化しようとも
 人の手を介さずに意味づけできるとは思えないからです。
 そのため筆者のフィルターやバイアスがかかったものとなることはやむを得ないものと
 思っています。

 

*1:大前氏論考の引用:

終戦時にソ連と米国の間で交わされた電報のやり取りが残っています。

ソ連スターリンが北海道の北半分を求めたのに対して、米国側は反発。

代わりに北方4島などをソ連が領有することを認めました。

 

この詳細は拙著「ロシア・ショック」の中でも紹介していますが、長谷川毅氏の「暗闘」という本に書かれています。

米国の図書館などにある精密な情報を研究した本で、先ほどの電報などをもとに当時の真実を見事に浮かび上がらせています。

 

すなわち、北海道の分割を嫌い、北方4島をソ連に渡したのは米国なのです。

今でもロシア(ソ連)を悪者のように糾弾する人もいますが、犯人は米国ですからロシアを非難すること自体がお門違いです。

 

さらに言えば、日本が「北方4島の返還を前提」に固執するようになったのも、米国に原因があります。

1956年鳩山内閣の頃、重光外相がダレス国務長官と会合した際、日本はソ連に対して「2島の返還を前提」に友好条約を締結したいと告げました。

しかし、ダレス国務長官がこれを受け入れず、「(ソ連に対して)4島の返還」を求めない限り、沖縄を返還しないと条件を突きつけました。

 

つまり、米国は沖縄の返還を条件にしつつ、日本とソ連を仲違いさせようとしたのでしょう。

この1956年以降、日本では「北方4島の返還」が前提になり、それなくしてロシア(ソ連)との平和条約の締結はない、という考え方が一般的になりました。

1956年までの戦後10年間においては「4島の返還」を絶対条件とする論調ではありませんでしたが、この時を境にして一気に変わりました。

 

プーチン大統領の提案に対して、マスコミも識者も随分と叩いているようですが、1956年以降日本の外務省を中心に政府がずっと国民に嘘をついてきた結果、真実を理解せずに批判している人がほとんどでしょう。

プーチン大統領の提案は理にかなっています。

日本政府の「嘘」を前提にするのではなく、とにかくまず平和条約を締結することから

始めようということです。

 

プーチン大統領の提案通り、まず平和条約を締結すれば、おそらく「2島の返還」はすぐに実現すると思います。

残りの2島については、折り合いがつくときに返還してもらう、というくらいで考えればいいでしょう。

相手がプーチン大統領であれば、このように事を運ぶことはできるでしょうが、別の人間になったら「1島」も返還されない可能性も大いにあります。

 

今、安倍首相は「とぼけた」態度を貫いています。

真実を理解しながらも、周りにはそれを知らず

理解していない人も多いでしょうし、長い間日本を支配してきた自民党が国民に嘘をついていたという事実をどう説明するか、など悩ましい状況にあるのだと思います。

 

安倍首相に期待したいのは、ロシアに対して経済協力などを続けながら、とにかくいち早くロシアとの平和条約を締結して欲しい、ということです。

それが実現できれば、安倍首相にとって最大のレガシーになると私は思います。

 

北方4島の全てが返還されなくても、それによってどれほどマスコミから叩かれても、安倍首相とプーチン大統領の間で、平和条約の締結を実現すべきです。

官房長官などは知ったかぶりをして、4島返還について日本政府の方針に変わりはないなどと発言していますが、全く気にする必要はありません。

 

プーチン大統領の「どちらの主権になるかは明記されていない」という発言は、日本に対する嫌がらせではなく、日米安保条約の対象になるか否かを見据えたものです。

返還された島の主権が日本になると、当然のことながら日米安保条約の対象になり、米軍基地が置かれる可能性が出てきます。

そうなるとロシア国民に納得してもらえませんから、プーチン大統領は困ります。

 

一方、北方4島は日米安保条約の「対象にならない」とすると、今度は米国が許容できないはずです。

中国との尖閣諸島問題では日米安保条約の対象として米国に庇護を求めていますから、北方4島は対象外というのは虫が良すぎるということになります。

 

ロシアと米国のどちらも納得できる理屈が必要です。

例えば、沖縄返還と同様に「民政」のみ返還し、「軍政」は返還しないという方法です。

この形であれば、米軍基地が置かれることはなくプーチン大統領も国民に説明できるでしょう。

ただ、現実的に島民のほとんどがロシア人なのに民政だけ返還されても、ほとんど意味がないという意見もあります。

いずれにせよ、北方4島の返還にあたっては、日米安保条約の対象にならないようなプロセスや理屈が絶対に必要になってくると思います。

 

プーチン大統領の次を誰が担うのかわかりませんが、仮にメドベージェフ氏が大統領になれば、2島返還ですら絶対に容認しないでしょう。

プーチン大統領が在任中にまず平和条約を締結することは、極めて重要だと私は思います。

 

というのも、中国がロシアに接近しつつあるので、ロシアにとって日本の必要性が低下し、このままだと日本にとってさらに厳しい状況になるからです。

東方経済フォーラムを見ていても、プーチン大統領と中国は明らかに接近したと私は感じました。

 

中国は巨大な人口を抱える東北三省の経済状況がよろしくありません。

その対策として、極東ロシアへの投資に向けて動いています。

中国とロシアの国境を流れる黒竜江アムール川)をまたいで、現在両国を結ぶ橋を建設しています。

中国側とロシア側でそれぞれ資金を出し合っていて、橋の建設には中国の技術が活用されています。

 

中国とロシア間の動きが活発化し、中国から極東ロシアへの投資が拡大すると、その貢献度はかなり大きなものになります。

 

日本も目を覚まさないと、全て中国に持っていかれてしまいます。

少なくともプーチン大統領は内心では親日派なので、今のうちに早く動くべきです。

最後にもう1度述べておきます。安倍首相には、

どんな批判を受けても悪役になろうとも、何が何でもロシアとの平和条約の締結を実現させて欲しい、と思います。 

引用終わり

*2:山口県長門市で12月15日に、東京で翌16日に行われた安倍晋三首相とロシアのウラジミール・プーチン大統領の首脳会談について、日本のマスコミの評価は厳しい。

北方領土問題で何も成果がなかった」「経済だけを食い逃げされた」というような酷評が多いが、それらは間違えていると筆者は考える。今回の日露首脳会談は大成功だった。

日本もロシアも、形式だけでなく、実質的に領土問題、経済協力を含む重要事項について交渉できる環境を整えるという目標を達成したからだ。

もっとも興味深いのは、16日の共同記者会見でプーチン大統領が、「われわれは、経済関係の確立にしか興味がなく、平和条約は二次的なものと考えている人がいれば、これは違うと断言したい。私の意見では、平和条約の締結が一番大事だ」と述べたことだ。

プーチン大統領は、1855年の日露通好条約で北方四島が日本領になったことにあえて言及することで、1956年の日ソ共同宣言でロシアは歯舞群島色丹島の日本への引き渡し義務を負っているにすぎないが、歴史的、道義的に日本が領有に固執する国後島択捉島について、何らかの譲歩を行う可能性を示唆している。

この方向で両首脳と両国の外務官僚が命がけで交渉すれば、3~5年後に歯舞群島色丹島が日本に返ってくる可能性がある。

 

さらにこの会見でプーチン大統領は、日ソ共同宣言の履行にあたっては、日本側は日米安保条約との関係で、ロシアの安全保障上の懸念を払拭する必要があることを「日本と米国の関係は特別です。日本と米国の間には安保条約が存在しており、日本は決められた責務を負っています。この日米関係はどうなるのか。私たちにはわかりません」と述べる形で示唆した。

具体的には歯舞群島色丹島を日本に引き渡した後、日米安保条約第5条を根拠に、米軍がこれらの島に展開することをロシアは安全保障上の懸念と考えているという意味だ。

この関連で過去の経緯についてプーチン大統領は「日ソ共同宣言に署名したとき、この地域に関心のある米国のダレス国務長官が日本を恫喝した。『日本が米国の国益に反することをすれば沖縄諸島全域は米国の領土になる』と」と述べた。

ここでプーチン大統領が述べた「ダレスの恫喝」については、1955~1956年に行われた日ソ国交回復交渉の際の日本側共同全権をつとめた松本俊一氏が、1966年に上梓した当事者手記『モスクワにかける虹』に記述がある。

北方領土交渉の基本文書であるにもかかわらず、初刷りのみで絶版になっていたので、2012年に筆者が長文の解説を附して『日ソ国交回復秘録』と改題して再刊した。

この本には、日本外務省が公開していない機密情報が多数含まれている。「ダレスの恫喝」もその1つだ。

1956年8月19日、重光葵外相はロンドンの米国大使館を訪れ、ダレス米国務長官歯舞群島色丹島を日本に引き渡し、国後島択捉島ソ連に帰属させるというソ連側から提示された領土問題に関する提案について説明した。

それに対し、ダレスは激しく反発した。

 

〈八月十九日に重光外相は米国大使館にダレス国務長官を訪問して、日ソ交渉の経過を説明した。その際、領土問題に関するソ連案を示して説明を加えた。ところが、ダレス長官は、千島列島をソ連に帰属せしめるということは、サン・フランシスコ条約でも決っていない。

したがって日本側がソ連案を受諾する場合は、日本はソ連に対しサン・フランシスコ条約以上のことを認めることとなる次第である。かかる場合は同条約第二十六条が作用して、米国も沖縄の併合を主張しうる地位にたつわけである。ソ連のいい分は全く理不尽であると思考する。

特にヤルタ協定を基礎とするソ連の立場は不可解であって、同協定についてはトルーマン前大統領がスターリンに対し明確に言明した通り、同協定に掲げられた事項はそれ自体なんらの決定を構成するものではない。

領土に関する事項は、平和条約をまって初めて決定されるものである。ヤルタ協定を決定とみなし、これを基礎として議論すべき筋合いのものではない。必要とあればこの点に関し、さらに米国政府の見解を明示することとしてもさしつかえないという趣旨のことを述べた。

重光外相はその日ホテルに帰ってくると、さっそく私を外相の寝室に呼び入れて、やや青ざめた顔をして、「ダレスは全くひどいことをいう。もし日本が国後、択捉をソ連に帰属せしめたなら、沖縄をアメリカの領土とするということをいった」といって、すこぶる興奮した顔つきで、私にダレスの主張を話してくれた〉

それ以前にも米国務省がワシントンの日本大使館に「日本がソ連案を受諾するならば、米国は沖縄を併合することができる地位に立つ」と伝達してきた経緯があるので、「ダレスの恫喝」は個人的発言ではなく、米国の国家意思に基づいたものだ。

ちなみに東郷和彦氏(京都産業大学客員教授)が筆者に述べたところによると、「ダレスの恫喝」に関する公電や書類は、外務省に存在しない。

東郷氏は、外務省のソ連課長、条約局長、欧州局長を歴任したので、北方領土交渉に関するすべての情報にアクセスすることができた。

筆者が現役外交官だったときに、「東郷さん、公電を誰かが湮滅したのでしょうか」と尋ねると東郷氏は「いや、北方領土交渉に関して重要記録を廃棄することは考えられない。あまりに機微に触れる内容なので、公電にしなかったのかもしれない。真相はわからない」と答えた。

「ダレスの恫喝」について証言する文書は、今のところ本書しかない。日本にとって唯一の同盟国である米国との関係を調整することが、北方領土問題を解決する不可欠の条件になる。