bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

COP26と「新しい資本主義」

先日、気候変動問題に関する世界会議COP26が英国グラスゴーで開催されました。

この会議には日本から岸田首相が参加、2050年カーボン・ニュートラル達成への日本国の決意、そしてアジア諸国のエネルギー・トランジションに最大1000億ドルの支援を行う意向を表明しました。

 

ところが議長国の英国から事前に、石炭火力の廃止時期を表明するよう求められていたにもかかわらず岸田首相は何らこの件については言明しませんでした。そのためか環境NGOからは二年連続となる「化石賞」が日本に授与されました。

TVニュースによると、COP26会場の周辺には若者を中心に世界中から5万人を超える人が集まり、COP26は綺麗ごとを並べただけで失敗だと抗議の声を上げました。日本からも高校生、大学生などがグラスゴーに向かい会場入りする岸田首相に意見書を手渡そうとしました。しかし、聞く力をアピールする首相は彼らに一瞥を与えることもなく無言で通り過ぎました。その後の報道によると、首相従者の方が手紙を受け取ってくれたようです。

 

いっぽう、衆議院選挙で勝利した岸田政権は目玉政策として、新自由主義とは異なる「新しい資本主義」を掲げ「成長と分配の好循環」を目指すとしました。

長年にわたり新自由主義という魔物に蹂躙されてきた先進国では、経済格差の拡大に象徴されるように平等な民主主義と国家の分断に苦しみ現状からの脱出を模索しています。

ようやく日本でも新自由主義からの脱却に向けて首相自ら舵を切るのであれば、とても良いことだと思います。

 

新政府の基本的な方針として、岸田首相の掲げた「カーボン・ニュートラル」と「新しい資本主義」という課題とその取り組み姿勢は妥当なものと評価できると思います。

 

ただし、この二つの課題をどのように調整、実行して目標達成するのかという点では大きな疑問を感じます。

それは、カーボン・ニュートラルと経済成長が共存して実施していけるものなのか、という点です。各種報道によると、日本のエネルギー燃料の全構成に占める化石燃料の割合は76%ということです。

この構成比率を29年間でゼロにするということですが、経済を維持するには化石燃料に代わる代替え燃料が必要です。その代替え燃料候補と目されるのが太陽熱、風力や水素などの再生可能燃料です。ところが、これらの再生可能燃料は今のところ供給量と供給の安定性そしてコストすべての点で化石燃料よりかなり劣るようなのです。これらの弱点がいつ化石燃料に匹敵し凌駕しうるものになるのか。または、新しい技術で非化石燃料を作り出すことができるのか。それとも現在構成比率24%の非化石燃料ですべてを代替えしていくのか。

このような疑問をカバーした工程表が見えてこないと2050年カーボン・ニュートラルのゼロ達成は画餅に帰してしまうと思います。もちろん目標達成の可能性は、今後の技術的展開に大きく依存するものと思いますが、素人の目からみると容易に解決できる問題ではないと思えます。

 

そこで、COP26のデモに参加した若者が語るように「住むところがなくなってしまっては豊かさなどなんら意味がない」という声に真摯に耳を傾け、技術革新にのみ依存せず私たちは生活習慣の変更など人的レベルでの省エネルギー活動を並行して行うべきではないでしょうか。敗戦から76年経過して私たちの生活水準はとてつもなく向上しています。これは、国民挙げて経済成長をひたすら追求してきた結果であることは論を待ちません。しかし、気候変動により毎年繰り返される自然災害もまた経済成長によりもたらされた結果です。私たちは経済成長は必ずしも人間社会の進化を生み出すものではないこと、また人間性の成長に貢献するものでもないことを改めて認識すべきだと思います。欲に呆け経済的な価値基準でものごとを観察し判断することを社会通念としてきた経済成長神話ですが、岸田首相はいいタイミングで成長神話を見直す機会を与えてくれたと思います。