物価高騰に困窮する庶民の救済と称し岸田首相自ら音頭を取り旗振りをした給料アップ政策。
かつては安倍政権も脱デフレ・景気浮揚策の一環として政府主導の賃上げを図ったことがある。
しかし魅力ある消費対象のない日本で多少給料が上がっても破綻した福祉政策や際限なき増税など
将来不安の消えない庶民の財布は緩まなかった。
そもそも物価高騰への対処策とは政治課題なのである。
しかるに政府は対策を処するにあたり全国民に対して万遍なく即効的な波及効果のある消費減税をおこなわず、
一部企業の従業員にのみ恩恵が生じる便法を企業に押し付けたのだ。
国民に給料アップという餌を見せて光明幻想を誘い統一地方選で優位に立つべく意図した政局対策ではないだろうか。
いわば物価高騰に喘ぐ国民の惨状につけ込んだパーフォマンス、お粗末な惨事便乗政治にすぎないと思えてくる。
給料アップに対応する企業の体力格差から自ずと生ずる給料アップの結果が
社会に及ぼす副作用を考えると手放しで給料アップ政策には賛同しがたい。
問題は二つある。
日本における給料とは世俗的倫理に近い社会的拘束性を有するものであり一度アップしたら
経済数値などを根拠にした論理では容易にダウンを説得し難い性格のものである。
さらに問題は容易に賃上げができない体質の中小企業が全日本企業のうち圧倒的な多数をを占めるていることである。
中小企業庁のデータによると、大企業の割合は全企業数の0.3%。 国内の企業数は421万社あり、
そのうち1.2万社が大企業で 残りの419.8万社が個人事業主を含む中小企業である。
中小企業は企業数で全体の99.7%、従業員数で68.8%を占めている。
また厚生労働省の調査(令和3年)によると、大企業の平均賃金(月あたり)は366,400円、中企業314,800円、
小企業289,000円である。賃金に反映されないフリンジベネフィットを考慮すると
大企業と中小企業の従業員の経済的な格差は歴然としている。
政府がいくら叱咤激励しようが全企業が簡単に給料アップできるわけではない。
原材料費や物価と異なり給料は一度アップしたら簡単にダウンできないゆえに、給料アップができるのは財務余力があり
また原材料の高騰分を商品・サービス価格に転嫁できる大企業がそのほとんどを占めることになる。
いっぽう原材料の高騰など経費の増加を容易に販売価格へ転嫁(大企業の下請け競争と市場の価格競争に負ける)できない
中小企業にとって給料アップとはイコール経費アップであり経営に大きな支障をきたしてしまう。
給料アップ率を競うかごとき大企業サラリーマン経営者の高笑いの陰で全財産を抵当に入れて給料の捻出に四苦八苦する中小企業経営者がいる。
こんなことでは企業数の9割9分超かつ従業員数の約7割を占める中小企業への「弱者いじめ」ごく少数の大企業とその従業員が享受し得る
「強者の驕り」という社会を助長するだけではないか。
持てる者と持たざる者の体力格差はさらに拡大しますます日本社会の分断化を促進するに違いない。
彼方の戦火を見て眼下の竈煙が見えない政治はやがて中小企業とその従業員そして持たざる者を軍靴でもって蹂躙していくのだろうか。
蛇足)
岸田首相は「新しい資本主義」を唱えるが、そもそも魅力ある消費対象のない日本社会の状況で持てる国民の収入を増やしても
大多数の国民は物価高騰にとても追いつかない給料アップ(これでも中小企業として最大限)では経済が回るはずがない。
それ以前の問題として、国家ビジョンが不透明というよりまったく見えないこの国では多くの国民は将来の生活実感と
儚い夢すら持てずましてや若者は将来の生活設計が立てられない。その結果として出生率の低下という民族の再生産さえできぬ
国家存亡の危機に瀕しているのです。
問題の本質は米国庇護のもと経済一本で成功した戦後の成功体験をいまだ踏襲したままの対米従属金権政治であり、
バブル崩壊後三十年いまだ無為徒食の為政者と私利私欲に明け暮れ国富の収奪に奔走する政財官の奸の横行です。
いま国民がなすべきことは無能な統治層と強欲な政官財が野合結託した似非国家資本主義という欺瞞体制の打破でしょう。