戦後世界をリードしてきたアメリカは崩壊へと向かっているのか。
トランプ関税について、ハーバードビジネススクールのエグゼクティブフェロー、ビル・ジョージ氏は「アメリカは世界75%の信頼を75日で失った」と苦言を呈しました。
トランプ大統領の就任後、75日が経過しましたが素人目にも政権方針が見えてきません。
いっぽう、ノーベル賞受賞者を含むアメリカを中心とする科学者2000人が「科学界への攻撃」を止めるよう求める書簡を公開しました。
書簡では「政府による80年以上にわたる賢明な投資が、世界がうらやむ今のアメリカの研究体制を構築した。
しかし、トランプ政権は研究への資金を大幅に削減し、数千人の科学者を解雇して、この体制を揺るがしている」、「新しい治療法やクリーンエネルギーなど、未来の新しい技術の開発を主導するのは、アメリカ以外の国になるだろう」と警告しています。
そして、フランス最大の大学であるエクス・マルセイユ大学は
「トランプ政権の反科学政策によって自分たちの研究が検閲される危険性があると考えるアメリカの科学者たちは、フランスで研究を続けてほしい」と呼びかけました。(一部、東洋経済Online野口悠紀雄さん寄稿、yahoo!finance記事より抜粋)
戦後世界の発展を支えてきたのは資本主義と民主主義であり、この二つは同時にアメリカの国家システムでもありました。
アメリカが黄金時代を築いた背景には、第二次大戦直後にアメリカが仕組んだブレトン・ウッズ協定がありました。ブレトン・ウッズ体制は、アメリカの思惑通りやがてIMFと世界銀行に切り替わっていきました。
ともに国際的看板を掲げてはいますが、いまや実態はアメリカ国際経済政策の支援組織になっているといえます。
アメリカは、この仕組みにサッチャリズムを模倣したレーガニズムを組み込んでいきました。
「サプライサイドに立ちながら消費主義」という民主的自由市場なる幻想を創造していったのです。
そのビジュアル化がショッピングモールとアウトレットでした。
ここまでのアメリカは栄光に包まれていました。
しかし、ベルリンの壁が崩壊して「歴史の終わり」が告げられると共に、世界は勝ち誇った資本の無限拡張を金科玉条とするグローバリズム(または市場原理主義)の罠に落ち込んで行きました。
いわゆる、「グローバリズム・民主主義・国民国家のトリレンマ」(この三課題は共存が困難)です。
9.11を契機にアメリカは政治と外交、戦争とビジネスの区別がつかなくなり、国家は社会への関心を喪失、所得と再配分の課題(資本主義社会の永遠課題)を放置、繁栄と貧困の格差拡大を増幅して深刻な社会問題を抱えました。
資本主義が直面している大きな問題ですが、次の二つにポイントがあると思わます。
アメリカはこの問題解決に長年にわたり苦慮、トランプ関税は死活をかけてグローバリズムにメスを入れアメリカ国民国家の修復・再生への活路を求めようとしているとも解釈できるのではないかと見えます。
危機に瀕する課題の一つは、商品化する対象が払底していることです。
資本主義は飽くなき資本の蓄積をめざすものであり、そのためにあらゆるものを商品化してきました。
モノの商品化からコトの商品化へ、そして金融工学を駆使した金融商品へ、いまや商品化できるものが底をつき、戦争や国まで商品化の対象にせざるを得なくなってきています。
このままでは資本蓄積の無限拡大は困難至極で資本主義理論は破産の瀬戸際にあるのかも知れません。
もう一つは、社会格差の拡大です。
資本蓄積を肯定すべく用意された「進歩主義」と「合理化」というイデオロギーが、進化論と科学技術の啓蒙を受粉して無意識的良心というバイアスを増殖してきました。
その結果、「労働に向かわせる強迫観念」のうえに「進歩・合理化至上主義」を合体した『宗教と倫理観念』」を私たちに
植え付けてしまいました。
私たちは人生の目的を喪失し、生存するための手段に過ぎないおカネを増殖(資本蓄積)すべく、
こま鼠のごとく踏み車を必死で踏み続けているのではないでしょうか。
資本蓄積の過程で生産されたモノやサービスの分配が適正に行われているかを認識することさえ忘れてしまったようです。
そのあいだに、政府は徴税で集めた資本を公的援助の形をとり巨大な資本を持つ集団や個人に手厚く分配してきました、
too big to fail であるとして金融混乱時等に大企業の損失補填を行うのがその一例でしょう。
グローバリズムは持てる者と待たざる者との格差を暴力的かつ幾何級数的に拡大しています。
資本主義が生んだ貧富の格差は多くの国で拡大伸長して、国民国家の政治を市場化してしまい、民主主義は持てる者だけの特権的な
数の理念になりつつあります。
戦後世界を支えてきた資本主義と民主主義という世界システムはアメリカに依拠するところ大であり、そのためアメリカが80年にわたる繁栄を享受できたものと思われます。
アメリカではこの世界システムが顕著に制度疲労を生じているのではないでしょうか、大きな世界的地殻変動の予兆を感じます。