bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

なぜトランプは人気があるのか。

アメリカの黄金期1950年代、労働者たちは平均的賃金を得て、ローンで家を買い新車を買った。

だれもがみんな一緒に「アメリカン・ドリーム」を満喫できたのだ。

アメリカの製造業が生産した製品をアメリカ国民が買う、そこには企業・工場の海外へのアウトソーシングなどあり得なかった。また労働者を守る労働組合は強固であり労使関係はすこぶる良好だった。

ところが、1960年代以降アメリカ経済は退化の一途を辿り国内経済は縮小均衡の時代に入り、高い失業率、企業倒産や銀行破綻、大学授業料の高騰が平均的労働者の生活を圧迫した。

その一方で貧富の差は年々広がり人口比1%に満たない超富裕層が富の99%を独占している。

しかし、歴代政権は民主党共和党も平均的労働者の生活を守る政策を推進すると口先では言いながらも実践しなかった。保守もリベラルも政権を取ると既得権益層のための政策に終始した。それはジョン・F・ケネディからバラク・オバマに至るまで歴代政権はみんな同じだった。

結果として、アメリカの政治は民主主義の理想をぶち壊し超富裕層とその他の層との溝を急激に広げてしまった。その意味では民主党共和党も同じ穴のムジナであった。

以上はノーム・チョムスキーの「Requiem for the American Dream」からの引用要約で私は

この見解に同感しています。

この認識に基づいて歴史と宗教への独断と偏見でトランプ人気の背景を考えてみました。

 

アメリカの黄金期であったなら、精神病的疾患が疑われ倫理観のまったくない人間で金儲けのためなら平気で噓をつく失敗した実業家ドナルド・トランプは、その激しい利己的名誉心を抱きながらたぶんどこかの片田舎でカントリーを聴いて飲んだくれた生活を送っていたことであろう。

しかしながら、支離滅裂になったアメリカ社会はこの支離滅裂な性格の人物を大統領に呼び出したのである。

そして両者は相互に腕力を競ってアメリカ的民主主義(経済力と連繋・野合する民主主義)の瓦解を促進していった。

この状況を阻止できるかと期待されたジョー・バイデンは混迷をさらに深めただけであった。

 

そんな状況でアメリカは大統領選挙を迎えるが、大統領候補としてドナルド・トランプの人気が高いらしい。ドナルド・トランプの支持基盤は、かつてアメリカ経済を支えた中間層そのなかで主流を占めた平均的労働者、およびキリスト教信者の多数を占める福音派の人々だといわれる。

つらつら思うにこの両者に共通するのはルサンチマン(権益層と逆境への怒り・憎悪・嫉妬・怨恨)であろう。

 

アメリカ黄金期をピークにして、その多くは他律的な要因から生活苦に追い込まれた平均的労働者(メデイアではラストベルトの白人労働者をクローズアップするが白人のみが困窮してきたわけではない)、彼らはいくらもがいても持てる者がさらに富んでいく経済構造と政治状況にうんざりする閉塞感が充満の日々を過ごしてルサンチマン感情を募らせてきた。

 

キリスト教福音派に目を向けると、そもそもキリスト教とはユダヤ教から生じている宗教なのだ。

ユダヤ教モーセに率いられて出エジプトを果たした人々が砂漠の中で民族統一の戦いを繰り広げて歴史上はじめて作った「一神教」である。

この一神教は、神が突然一つの民族を選び出し、その民族をおのれの民族であるとしておのれをその民族の神であると言明するのである。これもまた宗教史上初めてのことだ。

そんなユダヤ教の分派として出発したキリスト教はやがて母国に背を向け非ユダヤ化、ローマ帝国の支配を是認することで存続を図った。それはユダヤ人の民族主義運動を裏切ることになり各宗派からも愛国的大衆からもキリスト教は迫害された。イエスの死後300年を経過して人民統治のツールとしてキリスト教ローマ皇帝に公認された。

この歴史的過程においてユダヤ人の歴史書いわゆる旧約聖書キリスト教徒によりイエスを描く新約聖書に生まれ変わった。キリスト教パウロが主力となり創った4つの福音書ユダヤ人のあいだのユダヤ人だけの歴史を物語っている、にもかかわらずキリスト教聖典なのだ。

イスラエル統一国家を造ったユダヤ人はダヴィデ王、ソロモン王のもと瞬時の繁栄を享受するも、バビロン捕囚に始まる悲惨な歴史が始まり、現実からの逃避・彼岸の世界へのあこがれが定着化し復活=メシア(救世主)の考えが生まれくる。イエスユダヤ教徒として死んだが復活した時には、なんとメシアとして自ら神の子だと称して登場してくるのだ。

 

このような話は論理的に考えると複雑怪奇で支離滅裂に思える。しかし、キリスト教福音派の信者は、天地創造も生命もすべて神が作ったというインテリジェント・デザイン新約聖書に書いてある通り)の信者が多数を占めるという。長期にわたり抑圧された集団が論理的思考を停止して無意識のなかに彼岸への憧憬からメシアを希求する精神状態を滞留させることは不思議ではないといわれる。

このような人々にとってドナルド・トランプの言うMAGA(Make America Great Again)はインテリジェント・デザインユートピアアメリカの黄金時代)を想起させ、あたかもモーセのご託宣にも聞こえ来るのであろう。

平均的労働者はアメリカの黄金期を懐古しつつ現状打破に向け懸命に努力をするが現状はどうにもならない泥沼で沈み行くばかりだ。そこからの脱出を希求する人々が、出エジプトモーセや死後復活イエスの幻影をドナルド・トランプに夢見て託そうとしているのだ。

ドナルド・トランプ人間性や犯罪など問題ではない、インテリジェント・デザインに反する既成秩序と体制への怒りと憎悪そしてやるせなさ、それを彼は罵詈雑言の限り用いて代弁してくれるのだから。

ドナルド・トランプの人気を支えるのは、平均的労働者とキリスト教福音派の必死なるルサンチマンだといえるのではないだろうか。