bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

ウクライナ・ファティーグ

ロシアのウクライナ侵攻から1年になる先月、米国バイデン米大統領はキーウを電撃訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領に戦闘車両数千両の提供などウクライナ支援を約束した。その1週間後、こんどはイエレン米財務長官がキーウ(キエフ)を訪問した。
ウクライナのゼレンスキー大統領やシュミハリ首相らと面談したウクライナの経済財政の支援などを協議したという。
大統領がウクライナ支援を鮮明にしたのに、なぜ国務長官でなく国防長官でもない財務長官がウクライナを訪問したのだろうか。
おそらくは非軍事面からウクライナ支援の具体策を経済専門家として詰める狙いがあったのだろう。
イエレン財務長官はゼレンスキー氏との会談でウクライナに対する追加支援として、12億5000万ドルを供与すると表明した。
イエレン財務長官は経済問題のみでなく汚職が蔓延するウクライナ政府の査察を行ったのではないかと私は推察している。
彼女は経済のみでなく政治学にも通じているから政治姿勢(とくにモラルとカネの問題)を把握するのに適任であろう。ウクライナ独立以来、民主化の遅れに絶望して多くの優秀な若い世代がアメリカ、ドイツなど民主国に脱出してしまったウクライナの人材困窮については以前ブログに書いた。


ロシアのウクライナ侵攻開始から1年となった2月24日、米政府は総額20億ドル規模の対ウクライナ軍事支援を新たに表明したが、この1年間で米国の支援総額は320億ドルを超えた。この膨大な支援額については米国内で懐疑的な声が上がっている。ウクライナ勝利に向けて、時間と支援の競争でウクライナ破局の前に競り勝てるはずとバイデン政権は読んでいたのだろうが、戦況は一向に先が見えずこのままでは共和党の反発が増し政権運営に支障をきたし来年の大統領選への負の影響も懸念される。そこで2月末にウクライナを訪問したバイデン大統領はゼレンスキー大統領に戦争終結を説いたのではないだろうか。


いっぽう同盟関係にあるNATOだが必ずしも米国と一枚岩ではない。
ウクライナ侵攻から3か月後、EU各国民の意識調査「ウクライナ戦争の責任はだれにあるか」(Who is
most responsible for outbreak in Ukrine?)を民間シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR-European Council on Foreign Relations)が行った。その結果は以下の通り。(数字はパーセント)
       「ロシアに責任あり」   「ウクライナNATO、USに責任あり」
 フィンランド     90            5
 英国         83            5
 ポーランド      83            10
  (略) 
 ドイツ        66            20
 フランス       62            18
 イタリア       56            27           
またポーランド勢で41パーセントが「ロシア勢を打ち負かすことが最優先事項である」としているのに対し、ドイツ勢ではこれが19パーセント、イタリア勢では16パーセントにとどまっているなど、政府姿勢に加えて国民レべルでも認識の違いが大きいことがわかる。ECFRはポーランド勢とドイツ、イタリア勢の姿勢の相違は 「Justice とPeace」という理念で解説している。JusticeとPeaceとはまさに今回のウクライナ戦争の本質を言い当てたものだと私は思う。



ウクライナ戦争から一年経過した本年2月22日ECFR世論調査によると、アメリカ(カッコ内の数字はEUの主たる理由)がウクライナを支援する主な理由は何かという質問に対して、ウクライナ国土の保全 16%(14%) ウクライナの民主主義を守る 36%(16%)アメリカの防衛 15%(22%) 西欧の防衛 14%(26%)と報告している。
これを見るとウクライナの領土保全という大義に関心の低さが際立っている。また日本の論調と異なりアメリカ、西欧それぞれ「民主主義を守る」、「防衛」のためのウクライナ支援であるという意識の希薄さが目立つ。ウクライナ戦争から一年を経過し、ウクライナ戦争への関心とともにウクライナ支援の意義も目的さえも薄れてきているのではないだろうか。アメリカもEUウクライナ・ファティーグに陥っていると思う。

 

いずれウクライナ戦争は終わる。そこでウクライナ戦争終了後の世界はどうなるのかである。

昨年の国連総会で次のような決議案が採択されている。「安全保障理事会常任理事国が拒否権を行使した場合、総会会合を開いて説明を求める」ウクライナに侵攻したロシアが拒否権を行使し自国への非難決議案を廃案に追い込んだことから、拒否権行使の説明責任を常任理事国に負わせようとする機運が加盟国の間で高まったためであろう。

採択された決議は、総会議長が、安保理で拒否権が行使されてから10日以内に総会会合を招集し、行使した国に説明を求めると定める。説明は任意で出席も強制できないが、今後は安保理の理事国ではない国々が総会議場で拒否権の乱用を批判できるようになった。

決議案作成を主導したのはリヒテンシュタイン。「平和と安全は全ての加盟国の問題だ。拒否権のない多くの国の声を世界に知らせることが目的だ」と提案理由を述べた。決議採択後、メキシコ代表は「国連総会は発言権を得た。国連の強化に向けた重要な一歩だ」と述べた。今まで国際紛争の対応については安保理事国の拒否権に世界は悩まされてきた。今回の決議案でこの問題が簡単に解決できるとは思えないが国連改革に向け一歩前進であるとおもう。この提案が日本など国連の主要国ではなく小国のリヒテンシュタインによってなされたことは、ウクライナ戦争終結後の世界動向を占うものかという気がする。 またECFRは次のような世論調査の分析をしている。西欧に限らず世界中の人は米国が主導してきたリベラル秩序は消滅していくと考える。逆説的に言うと、ロシアの侵攻により新規に結束した西欧は米国が主導してきた国際化の復活を意味するものではない。米国の世界的なスーパーパワーがこれから10年継続すると考えるのは、米国では9パーセント、EUでは7パーセント、英国では4パーセントの人だけだ。そして世界の両極化がまた冷戦時代と同様にやってくると多くの人は推測する。両極は米国と中国だ。しかし、西洋(EU、US)以外の国民は両極化ではなく分断化がこれからの世界秩序となるだろうと信じている。非西洋の中国、インド、トルコ、ロシアの人々は西洋は遅かれ早やれ一極化して強力になるが覇権的にはならないと予測している。

ロシア国民の61パーセント、中国国民の61パーセント、トルコ国民の51パーセント、インド国民の48パーセントがこれからの世界秩序は多極化するか中国(または非西洋国家)が規定していくだろと予測する。なんとこの予測は米国では37パーセント、英国では29パーセント、EUでは31パーセントの支持を得ている。
西洋が予測する米国と中国の両極化に向かい重要な役割を果たすのはインドとトルコと予想される。