bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

惨事便乗

1.惨事便乗とは。

「人の弱みにつけこむ」という昔からの言葉がある。

これはひとと人との関係における私的な脅迫や略奪行為である。

近頃は、国民や世界社会を対象にして権力が「窮状に便乗して利得を得る」という公的搾取いわゆる惨事便乗型の政治や経済が国内外で注目されているようだ。

2007年に出版されたナオミ・クラインの「The Shock Doctrine」という本があるがこの書物に起因するのではないかと思う。

同書は、”9.11”からイラク戦争に至るまで、ショック・ドクトリンがどのように働いたかを分析してみせた。国防省の民営化をはかるラムズフェルド国防長官は、2001年9月10日(9.11の前日)国防総省の官僚を指して「執拗な敵がいる」と発言。9.11以降は今までのナラティヴが通用しない政治家と社会の座標軸を見失った人々を対象にして、文明の衝突悪の枢軸論をぶつけて衝撃を与えるや間髪おかず2002年11月には国土安全保障省(Department of Homeland Security)を設立。テロとの戦いは先制攻撃(preemitive      

strike)にありとして、民間セキュリティ産業や戦争請負会社などに積極投資をおこない2001年からの戦費は年間7千億ドルと一挙に倍増した。大発展したセキュリティ、軍需産業は戦争という惨事に対するビジネスとしての戦争という「惨事便乗型資本主義」(disaster capitalism)の先導者となった。その後アフガン戦争、タリバン崩壊による社会混乱、グアンタナモ基地での人権侵害などアメリカの対外活動を総してチョムスキーは三つのショック戦術(戦争、経済、弾圧)と総括、アメリカこそがテロリストであり「ならずもの国家」と評した。

ナオミ・クラインはショックとはいずれは消え去るもの、重要なのは自分に起こったことを知ることだという。また人は守ってやると約束する指導者に従いがちだと指摘する。

 

2.ロシアのウクライナ侵攻にみる惨事便乗型の政治、経済そしてマスコミ。

国内のTVニュースはウクライナ侵攻の報道オンパレードの感がある。

当初は西側メデイァの情報を垂れ流すだけであったが、最近では日本から報道陣をウクライナ現地に派遣しての報道が目に付くようになってきた。

しかし、ウクライナ侵攻が連日TVのトップ・ニュースなのかと疑問に感じていた、そんなとき「知床半島沖の観光船遭難」と「不明女児と類似の靴発見」という悲惨な情報が飛び込んできた。すると早速この報道がTVニュースのトップになっている。

ウクライナ侵攻とともに国民の感情に訴える悲惨な事故ではあるものの、2か月の長きにわたりTVのトップ・ニュースが惨事報道ばかりなのか大いに疑問に思う。

 

日本政府はウクライナ侵攻を世界最大の危機であり、わが国防体制への警鐘だとして防衛力の強化(防衛費の増額)さらには念願の憲法改正へと向けてウクライナ惨事に便乗した政治戦術と世論喚起の活動を活発化させている。

またウクライナの惨状をTVやSNSで目にした国民はあまりの悲惨さにプーチン憎し一色である。こんな国民感情を取り込んで岸田首相は北方領土問題をかなぐり捨て強硬一点張りのロシア政策を打ち出し内閣支持率の上昇へとつなげた。

アメリカではウクライナ支援に供する軍事兵器の生産がフル稼働しても間に合わないと噂されているという。ウクライナ支援のためアメリカ議会は3月に136億ドルの予算を可決したが、先日バイデン大統領は支援強化のためさらに330億ドルの追加予算の承認を議会に求めた。民主主義の旗手アメリカの人道主義を称賛する声がある一方でウクライナを捨て石にしたアメリカの惨事便乗資本主義だという説もあるようだ。ウクライナを舞台に戦争が長期化するほど、プーチンを世界の悪者にしてアメリカの相対的な地位を高めつつ実戦でアメリカ製兵器の優秀性が世界中に報道される。惨事に怯える各国から商談が舞い込むこと間違いないのかもじれない。まさに一石二鳥の惨事便乗型資本主義である。

 

3.なぜ惨事便乗はかくも容易に人を掌握できるのだろうか。

オレオレ詐欺」にみられる惨事によるショックで、「今ここ状態に陥り感情に流されてしまう」いわゆる「今ここ効果」(here and now effect)の罠に人は陥るのではないだろうか。

今ここは、多くの場合にその時点でしか通用しないのに恒常的または普遍的な事態と思い込んでしまう。それは、ショックにより感情と理性・知性が相互補完のバランスを失い不寛容には不寛容(目には目を)になってしまうからだと思える。

 

追記)

 台湾有事やロシアのウクライナ侵攻など国民の不安に乗ずるかのごとき政府が主導する国防強化と防衛費増額論そして改憲論議

これらも惨事便乗型政治の類と警戒してかかるべきであろう。