bekiranofuchi’s blog

社会を独自の視点で描いてみたいという男のつぶやき。

アメリカの「ダブル・スタンダード」



アメリカの対外政策は「自国のダブル・スタンダード」(アメリカ・ファーストという国家理念に依拠した民主主義と孤立主義)を、国際機関のなかに植え付ける(embeded)ことに本質があるのではないかと思います。

ウクライナ侵攻にともなうロシアのジェノサイド疑惑は、ロシアの責任者としてプーチン大統領ICC( International Criminal Court、国際刑事裁判所)に訴追すべきとの話が出ているようです。しかし、訴追をしても裁くことは難しいでしょう。なぜならロシアはICC非加盟国だからです。また、ロシア同様にアメリカも非加盟国です。

国際連合の総会ではロシアに対する非難決議が可決されましたが、安全保障理事会の決議とは異なり総会決議には法的拘束力はありません。いっぽうロシアは安全保障理事会常任理事国ですから、自国への非難決議案に対する拒否権を発動して廃案にできます。つまり、いかなる総会決議をしようと安全保障理事会でロシア(を含む常任理事国)に法的拘束をかけることは不可能です。

第二次世界大戦後、アメリカの戦争はロシア同様に他国領土で行われていますが、なかには戦争犯罪を問われても不思議でない事例があったと思います。しかし、ICC非加盟国かつ国際連合常任理事国であるアメリカが訴追されたことはなかったと思います。それよりもアメリカは人道主義(民主主義)と民族自決主義(孤立主義)を上手に使い分けることで、国際社会の火の粉を避けながら民主主義の旗手として国際社会における地位固めをしてきたと思います。
その背景となった影の大きなバックボーンは国際連合第二次世界大戦戦勝国パラダイム)ではないでしょうか。
ロシアもアメリカも国際的な免罪符つまり「法的拘束力の回避特権」を持った戦争ができるのですから。

第一次世界大戦後に設立された国際連盟アメリカ大統領の提唱に大きく依拠したものでした。
しかし、アメリカは国際連盟には加盟しませんでした。
第二次世界大戦後、世界平和を目指す国際連合の設立はアメリカ大統領の提唱が大きな力を発揮しました。
そして、アメリカは国際連合の実質的な最高決定機関である常任理事会常任理事の「永久座席」を戦勝四大国(英、仏、露、中)と手を携えて確保し、手続き事項を除く全ての事項に関する議案への「拒否権」を獲得しました。
さらに、枢軸国を監視下に置く「敵国条項」を盛り込んだ国連憲章日米地位協定とを連繋させることで日本を実質的占領下の地位に留めおくことにアメリカは成功したと愚察されます。
第二次世界大戦後のアメリカは他国領土内での戦争を幾度か繰り返しましたが、人道主義(民主主義)と民族自決主義(孤立主義)を上手に使い分けることで、国際社会の火の粉を避けながら民主主義の旗手たる地位固めをしてきたと思います。


日本にはホンネとタテマエの人=「情」のダブルスタンダードがあるように、アメリカでも人道主義(民主主義)と民族自決主義(内政不干渉)という国=「益」のダブルスタンダードがあるように思えます。

アメリカ・ファーストという言葉は全体主義個人主義の二重構造ですから、二重構造の上に築くダブル・スタンダードというべきかもしれません。

 


アメリカにしかないアメリカの良さといったものは、アメリカが国際政治に参加しないことを前提として可能なものであった。”
「文明が衰亡するとき」高坂正堯

 

"米国は建国から第二次世界大戦まで、戦時を除いて同盟国を持たない「孤立主義」の国家だった。ソ連との冷戦を戦うために世界中に同盟国を求め、海外基地ネットワークを張りめぐらせても、孤立主義の考え方は国民の間で根強く支持されている。米国政府にとって、同盟国との地位協定で米国に有利に規定した裁判管轄権は、国内世論の孤立主義を刺激しないための安全弁なのである。"
日米地位協定』山本章子